辻整形外科クリニック

人工膝関節手術


55歳を過ぎて、膝の痛みを感ずる方にもっとも多く見られるのが変形性膝関節症です。その臨床症状として、まず、膝関節の内側部を主体とした疼痛(痛み)があります。疼痛に伴って最初から腫脹(腫れ)を認める場合もよくあります。疼痛は、最初は起立時痛・歩行時痛からはじまり、次第に増悪してくると安静時痛や夜間痛まで覚えるようになります。その後、痛みのため膝関節を自由に動かせない期間が続くと膝関節の屈曲拘縮(膝が曲がりにくくなり、その後、本当に曲がらなくなってくる。)がはじまり、さらに進行してくると、関節破壊による内反変形(O脚)を生じてきます。膝の可動域制限や変形が進行してくると、正しい姿勢で歩行することが出来なくなり、前かがみで小股で歩行するようになり、年齢的に骨粗鬆症も伴ってきていることが多いので、円背・亀背(背中が丸く曲がってくる。)が悪化し、姿勢がさらに悪くなるので、歩行時転倒しやすくなります。高齢になって転倒して骨折するとその後、健康な日常生活に重大な支障を来たすので、変形性膝関節症は悪化しないうちに早くなおしておくことが賢明です。

変形性膝関節症の原因は@物理的外力とA退行変性です。@の物理的外力としては、外因的なものとして、重いものを持つ重労働や長時間の労働(農作業など)があります。また、アパート・マンション住まいや学校の教室での業務で、3階以上の階段を日に何度も往復する場合も、大きな外力がなくても、膝関節への負担が大きくなります。また、内因的なものとしては、自分の体重があります。軽度の肥満の方が変形性膝関節症に罹患する確率は4倍高いとされています。体重が80kgを越える方は8倍の確率で変形性膝関節症に罹患するという報告もあります。肥満の強度の方は52〜53歳頃から変形性膝関節症が進行しはじめている方が多いようです。

変形性膝関節症の治療としては、初期のうちは、保存療法として、消炎鎮痛処置・運動療法・内服・関節注射などを行います。変形性膝関節症の進行期や末期には保存療法にうまく反応しなくなってきます。関節裂隙(関節のすき間)が1〜2mm以下になってきた末期の変形性関節症では、人工膝関節形成術 (TKA)・人工膝関節置換術 (TKR)という手術が必要になってきます。

上の写真は変形性膝関節症の患者さんに対して、人工膝関節手術(人工膝関節形成術(TKA)・人工膝関節置換術(TKR))を行った後の術後X線写真です。大腿骨の遠位部には強度が高く摩耗に強いコバルト・クロム合金でできたフェモラル・コンポーネントという部品を設置してあります。脛骨の近位部には骨親和性に優れ形成加工しやすいチタン合金でできたティビアル・コンポーネントという部品を設置してあります。大腿骨と脛骨の間には、ティビアル・コンポーネント上に、耐摩耗性が高く長寿命が期待されるクロスリンクの超高分子ポリエチレンでできたディビアル・インサートという部品が設置され、人の軟骨の代わりをしています。また、膝蓋骨(膝の皿)の裏にも超高分子ポリエチレンのパテラ・コンポーネントという部品も設置し、立ったり座ったりするときの膝の皿の裏の軽度の疼痛や不快感を取り除くようにしてあります。

人工膝関節形成術の適応疾患として多いものは変形性膝関節症と関節リウマチですが、ほかに大腿骨遠位部の特発性骨壊死や、骨腫瘍摘出後に膝を再建する場合にも用いることがあります。

当院では、約15年前より、人工膝関節手術の工具を改良し、小さな手術創での人工膝関節手術に努めており、今までは、約11cm〜13cmの傷で手術を行っておりました。一般的には20cm〜25cm切開する施設が多かったので、約60%の手術創の長さでの手術に取り組んでいました。しかし、股関節の手術症例で、当院では、アメリカ人医師のアドバイスにより1993年より日本のどこの大学病院整形外科よりも早くMIS最小侵襲人工股関節手術への取り組みと手術の施行を開始し、2002年より、ほとんどの人工股関節手術の症例でMIS最小侵襲手術を行ったところ、術後の回復が大変早かったために、膝の手術、すなわち、人工膝関節手術においても、MIS最小侵襲手術で同様に有効な結果が得られるものと考えられるようになりました。メーカー各社も趣意に賛同していただき、フェモラル・コンポーネント用、ティビアル・コンポーネント用、パテラ・コンポーネント用のそれぞれ特殊な手術機械を開発し、これによってさらに小さな傷と膝関節周囲組織と筋肉への少ない侵襲で手術を行うことができるようになりました。

<MIS最小侵襲人工膝関節手術>
当院では、MIS最小侵襲人工膝関節手術といってできるだけ小さな手術創で手術を行うように工夫しています。最近は、8〜9cmで手術が出来ることが多くなってきました。(パソコンのサイト(http://www.spacelan.ne.jp/~tkct/lesion02.htm)には写真を供覧してあります。)変形や拘縮の著明な方では、もう少し切開が必要ですが、手術創が小さいと、筋肉や関節周囲組織の損傷が小さいのはもちろんのこと、手術を受けた患者さんの傷の痛みも小さく、リハビリが早く進み、以前に比べて大変早い回復が得られます。MIS最小侵襲人工膝関節手術には問題点もあります。手術傷のサイズの小ささだけを求めた場合は、脛骨を側方から切ることにより、6〜7cmにすることもできます。しかし、側方から脛骨の骨切りを行うと、術後に膝の内外反の不正確さが残ることがあり、人工関節の寿命と外見上の問題が生じます。当院では、手術を正確に行うことを第一目標とし、手術創を小さくしつつも、脛骨の骨切りは正面より行い、正確確実に手術を行えるようにしております。

手術でもっとも大切なものは、術者の正しい判断能力と人工関節手術の熟練熟達度です。全国の各社会保険事務所から2004年に読売新聞社に情報開示公開された2003年度の人工関節手術件数では、当院は1人の専門医師が手術を行う法人立の医療機関として最多の手術件数があります。 当院での手術は人工関節手術専門の整形外科医としての経験年数25年の院長辻 俊一がすべて執刀し主治医となりますのでご安心下さい。

人工膝関節形成術の歴史についてひとこと:変形性膝関節症に対する人工膝関節手術の初期の発展の歴史は、股関節の人工関節の発展の歴史と密接な関係があります。人工関節の歴史的な最初の手術はまず股関節で行われ、その成功が膝関節に応用されて発展してきました。膝に人工物を挿入して膝の痛みを改善しようと考えたのは、ヴェルネイユでした。彼は膝の関節のいたんだ部分に軟部組織を挿入して痛みが取れるとの考えを1860年に発表しましたが、その後、彼の考えに従って、ブタの膀胱、ナイロン、大腿筋膜で試されましたが、結果的にはよい成績は得られませんでした。1938年になって股関節にバイタリウムという金属を入れる手術がうまくいくようになり、この成功を見てキャンベルは膝関節形成術にも金属を用いうることを1940年に発表いたしましたが、広く人工膝関節形成術が行われることはありませんでした。1961年にチャンレイが発表した人工股関節手術で優れた成績が得られるようになり、その後、膝について本格的に人工関節手術が普及するようになったのは1970年代になってからのことです。1971年にガストンがチャンレイと同様にセメントを使って人工関節を強固に固定し、1972年に発表されたジオメトリックという人工関節は、人工関節手術の最も普及しているアメリカでも広く使われました。しかし、それまでの人工関節は今の時代から見ると、まだ充分満足な成績が得られるものではありませんでした。1973年にI/B型という人工関節が出て、今最も普及している手術方法の原型ができあがりました。この人工関節では膝があまり曲がりませんが、痛みがちゃんととれるため世界中に普及し、今でも、使っている先生もいらっしゃいます。その後、膝の左右に合わせたデザインの人工関節が作られるようになり、初期の人工関節に比べてよく曲がるようになってきました。はじめの頃は人工膝関節でちゃんと痛みがとれるのかが問題点でしたが、今では、痛みがとれるのは当然で、かつ、熟練した術者が手術をすれば、膝がよく曲がるのも当たり前というところに来ました。最近では、どうしたら人工関節が長持ちするか、どうしたら小さな傷で手術を行えて、術後早期に回復するかという方に整形外科医の関心が移ってきています。

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