辻整形外科クリニック

人工股関節形成術 THA




人工股関節形成術という股関節手術は、カップ・ライナー・ステム・ヘッドという4つのコンポーネント(=部品)を入れて股関節の痛みを取り、股関節可動域(=股関節の動き)を良くする手術です。適応疾患として多いものは臼蓋形成不全に引き続いて発症する二次性の変形性股関節症と一時性の変形性股関節症ですが、関節リウマチや大腿骨頭壊死もよい手術適応です。変形性股関節症についてはこちらをご覧下さい。

◆人工股関節手術の目的(長所)◆
人工股関節手術の目的は、股関節の痛みを完全に取り除くことと、股関節可動域を改善するすることです。それに、脚長差があれば、これを補正して足の長さをできるだけ同じように治します。人工関節手術によって痛みから完全に解放され、以前より可動域のよい股関節となり、ショッピングをしていても疲れない、より遠くへ歩けるようになる、より遠くへ自転車で行けるようになるなどのように、今までより日常生活動作での実用レベルが向上します。「足って、こんなに便利なものだったの?」と自分で感心する患者さんもいらっしゃいます。それは、今まで、足の痛みが出るのが恐くて、自分で活動レベルを下げていたからです。やせてきた膝より少し上の大腿部(=ふともも)の筋萎縮(=足の筋肉がそげ落ちて細くなること)の進行が止まり、次第に元の筋肉を回復してきて、大腿四頭筋や中殿筋の筋力も回復し、だんだんと進行してきた跛行(はこう=足を引きずって歩くこと)も手術後は次第に改善していき、今までより日常生活活動レベルが向上し、歩行容姿も格段に改善します。普通の人と同じように歩けるようになる人も多くいらっしゃいます。当院で行っている、手術の傷の6〜9cmと小さいMIS最小侵襲人工股関節手術(極小侵襲人工股関節手術)で手術を行った患者さんの多くは、人工関節手術後、知人に「あなた、どこ手術したの?」と聞かれるくらいに改善します。自転車や水中運動はもちろんのこと、手術後ジムを引き続き楽しんでいる方も多く、中にはゴルフやテニスをされている方もいます。(もちろん人工関節は大切に使うことが重要です!)人工関節手術前は股関節痛があって脚力もなく海外旅行をあきらめていた方も、希望していた方の多くが痛みなしに海外旅行に行かれています。

◆人工股関節手術の問題点(短所)◆
人工関節手術後には、@血栓、A脱臼、B感染、C骨折、D神経麻痺、E金属アレルギー、F転子部滑液包炎、G弛緩・摩耗などの合併症を認めることがあります。@血栓は主に深部静脈に発生しますが、これが発生した場合や発生の予防のために、弾性包帯や下肢の挙上を行います。人工関節手術後、早期にリハビリを行うことも深部静脈血栓の予防に大いに役立ちます。飛行機の中のエコノミー・クラス症候群のようにならないようにするため、手術を受けた患側の足の筋肉を早めに動かして、筋ポンプ(=筋肉を収縮させることにより、静脈血を中枢に押し上げ、下肢の血管内に血液が停滞しないようにする筋肉のポンプ作用)を効かせ、血栓の発生を防止します。A脱臼は手術直後に起こるものと何週間もしてから起こるものがありますが、手術直後のものは局所の安静にて対処します。手術後何週間もしてから脱臼させてしまった場合は、脱臼しやすい肢位をよく覚えていただいて、この肢位をとらないように気を付けていただきます。脱臼した場合、普通は再手術しなくても整復することができますが、整復しにくい場合は再手術を要することもありますので、手術後、転倒して脱臼させたりしないように充分に気を付けてください。 平成14年にほとんどの人工関節手術をMIS手術で行うようになってからは脱臼もほとんど発生しなくなってきました。B感染は人工関節手術後、以前クリーンルームのなかった時代は3〜5%発生していましたが、最近では、0.5〜1%程度です。当院では感染防止のためもちろんバイオクリーンルームで手術を行い、手術中に手術創は専用器械を用いて抗生物質入りの大量の生理的食塩水で充分に洗浄し、手術の前後に抗生物質も投与します。クリーンルームを作っても大病院で手術場が2階・3階にある場合は、人の出入りが多く患者の移送搬入も頻繁なのでクリーンレベルの実測値が落ちます。また、手術室と前室のみクリーンルームになっていて、手術室のドアの開閉の度にクリーン度が落ちることもることもしばしばです。当院での対応は、手術室内の空気の出入りを考えて、一般の方の出入りを制限した5階に手術室を設け、そこを手術室と器材滅菌室の専用フロアとし、全室(手術室2室・滅菌洗浄室・手術室の廊下・手術患者搬入用の廊下)すべてをクリーンルームとし、どこの病院よりもクリーンレベルが上がるように工夫して設計しました。感染防止のため、退院後も、歯槽膿漏になった歯の治療や、カゼなどをこじらせて気管支炎を合併してきた場合や膀胱炎など感染症を併発した場合は、早めに治療してください。C手術中に大腿骨にステムを挿入したり、その準備操作の段階で大腿骨が骨折することがあります。大腿骨内に挿入するステムのサイズが小さいと手術後大腿部に痛みを感ずることがあるので、これを防止するためには大腿骨に挿入するステムのサイズはできるだけ大きい方が望ましいのですが、1段階大きなサイズのステムに進もうとする時に大腿骨に骨折を生ずることがあります。近位部の小さな亀裂骨折の場合はそこに骨移植をすればそれですむ場合もありますが、骨折が大きい場合は大腿骨周囲にワイヤやケーブルを巻いて固定します。D短縮した下肢を2cm以上手術で伸展させようとした場合や、伸展が1cm程度でも以前に股関節の手術を受けていて坐骨神経が周囲の組織と癒着している場合は、術後坐骨神経が過伸展されて神経麻痺を起こす場合があります。一過性に回復することが多いのですが、手術時に神経麻痺のおそれがある場合はあまり無理に下肢を伸展させないようにして対処します。E金属アレルギーは人工関節のように生体内にある場合は、皮膚などと違って、アレルギー反応の発生頻度はごく低頻度です。コバルト・クロム合金や、今ではほとんど使われないステンレス鋼(ニッケル含有)のステムでは、大変まれに体に合わないために挿入した人工関節に対して金属アレルギーを起こして人工関節周囲に骨融解を起こすことがあります。この場合、抜去してセメント固定にする必要がある場合もあります。チタン合金はコバルト・クロム合金やニッケル含有ステンレス鋼に比べて、人体での金属アレルギー反応は少なくてより安全であると考えられています。F金属アレルギーとは別に単に転子部滑液包炎で手術創近辺に水がたまる事があります。その場合は一般的には手術ではなくて保存的な消炎処置で対処します。G弛緩・摩耗については長期的問題ですが、人工関節を早くすり減らさないように大切に使うように心がけてください。時々ゴルフをしたり、ダブルスでテニスをする程度なら許容範囲内ですが、ジャンプや登山などは控えていただきたいと思います。人工股関節のライナーにクロスリンク超高分子ポリエチレンを用いるようになってからは、以前よりは、自由に活動していただいても問題がなくなってきているように思いますが、やはり人工関節は大切に使っていただくことが何よりです。人工関節の材質・デザインを正しく選択し、初回の手術がよい場合は、人工関節の弛緩・摩耗の発生率を大いに下げることができます。

◆人工股関節手術で用いる器材の材質について◆
人工股関節手術で現在主流の方法では、カップ(アセタビュラー・コンポーネント、ソケット)・ライナー(インサート)・ステム・ヘッドという4つの部品を用います。
臼蓋側の寛骨臼にはカップという部品を設置します。骨親和性のよいチタン合金でできたものがほとんどです。その中にライナー(インサート)といって、人間の軟骨の代わりをする部品を挿入します。材質は超高分子ポリエチレンというプラスチックの仲間のものでできています。クロスリンクといって強度を高めた物の耐久性が優れています。若年者や高度の肥満の方には第3世代のアルミナ・セラミックの物もあります。
大腿骨側にはステムという部品を挿入します。ステムは強度の強いコバルト・クロム合金のものと骨親和性のよいチタン合金でできたものがあります。チタン合金は強度的に心配されましたが、正確なコンピューターによる強度計算と実際の臨床成績から、次第に、信頼性の高いものができるようになり、最近はチタン合金のものが増える傾向にあります。ハイドロオキシ・アパタイト(水酸化アパタイト)という素材をコーティングして骨親和性をさらに高めてあるものもあります。
ステムのうえにヘッドをかぶせます。ヘッドは強度と耐摩耗性を重視してコバルト・クロム合金のものとセラミックのものがあります。人工股関節手術で用いる器材は人によってかなり違う股関節の形状と人工関節の形状がぴったり合致することを重視し、常に進化・開発される素材の中で効果が実証された各社の最新機種の中から、その患者さんにとって最もよい使用機種を手術ごとに決定します。

◆自己血輸血について◆
当院では、人工股関節手術前に貯血する自己血は400mlで1回の採血のみです。私は自己血を回収するCBCコンスタバック・ドレーンという器具を1988年に最初にメーカーに輸入依頼し、薬事承認された3年後の1991年から今では常識になった術後自己血回収術を日本で最初に開始しました。それ以降は他家血輸血は原則的に行っておりませんので、術後、肝炎やエイズに感染する心配はありません。エホバの証人などの無輸血手術にも対応しております。

MIS極小襲人工股関節手術についてはこちらをご覧下さい。

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