辻整形外科クリニック

臼蓋回転骨切り術 RAO



↑臼蓋回転骨切り術


臼蓋形成不全の写真
変形性股関節症の初期
RAO術後8年目のX線写真
RAO手術創(普通の半分)
動くRAOの骨切り写真

 先天性股関節脱臼という病気は、生まれながらにして股関節の脱臼している病気で、逆子の赤ちゃんに多く発生します。脱臼が治った後も、臼蓋形成不全といって丸い大腿骨頭を受ける臼蓋という屋根の部分の骨形成が不十分な方が見られます。 臼蓋形成不全の患者さんで股関節に負担の多くかかる方では、骨頭の上の部分の関節の軟骨が傷んできて、次第に股関節の痛みをきたすようになります。
 このような患者さんには、股関節の病変を防止するために、臼蓋回転骨切り術 (RAO)という手術を行って、変形性股関節症へと進行を減らせるようになりました。
 最近では良い人工骨も開発され、自分の体から骨移植のためにとる自家骨も少なくすませることができるようになり、従来のように、正常な病気でない部分の骨を余分に削らなくてすむようになりました。また、股関節の回転する臼蓋に対して直上ではなく前後の離れた2ヶ所から進入する従来の方法と違い、生体内吸収性のスクリューを回転した寛骨臼(=臼蓋)に対して、寛骨臼の直上の最も強固に固定できる部位に使用する事にができるため、早期より従来より強固な固定を得ることができ、ベッド上安静期間が短縮でき、従来に比べて「早期リハビリ早期回復」ができるようになりました。
 当院で行っている臼蓋回転骨切り術 (RAO)は、従来普及していた方法に比べ、関節の侵襲が1ヶ所と少なく、手術創の長さは半分以下です。若い女性の患者さんにとっては、傷が小さいことは美容的にも大変重要なことですが、実は、単に傷が小さいことだけが長所というのではなく、この手術は、臼蓋回転骨切り術 (RAO)のMIS最小侵襲手術(極小侵襲手術)であり、股関節周囲の筋肉や関節周囲組織を温存し、術後の早期の回復に大きく寄与しています。当院でのベッド上安静臥床期間は3日間に短縮され、手術後4日目で車イスに乗ることができます。手術を受けられた患者さんの体験ホームページによく書いてあるように、ベッド上で排泄する苦痛もほとんどありません。

◆臼蓋回転骨切り術(RAO)の目的(長所)◆
臼蓋形成不全の患者さんに対して臼蓋回転骨切り術(寛骨臼回転骨切り術)を行います。臼蓋形成不全があって悪い方の股関節や大腿部や膝に痛みがくる人に手術を行って、現在の痛みを取ることが重要な目的です。また、臼蓋形成不全を放置すると大腿骨頭と臼蓋の関節軟骨がいたんできて、軟骨がすり減った骨関節の破壊が進行して股関節痛が増悪し、その後、変形性股関節症という病気に移行します。この変形性股関節症になる確率を下げる事も、もう一つの重要な目的です。臼蓋形成不全の程度はCE角が0°〜20°が私はよい適応と考えています。CE角は病院で測定しますが、臼蓋形成不全の患者さんでは臼蓋縁が頭側にはね上がっていることが多くあり、荷重がかかっている部位を正しく知る必要があります。 変形性股関節症が重症になると人工股関節形成術を行う必要性が出てきますが、その確率は、臼蓋形成不全の程度(CE角の程度)により25〜75%程度です。臼蓋回転骨切り術々後に経過が順調な場合には、自分の骨関節で股関節を治すことができ人工関節を入れなくてすむという利点があり、人工関節を要する確率が5%程度以下に下がることを期待しています。手術の適応年齢は17歳頃(成長を示す骨端線が閉じてから)から35歳頃までがよい適応で、30歳までが治りやすい時期だと思います。

◆臼蓋回転骨切り術(RAO)の手術方法(専門的)◆
オリエール皮切という皮膚切開を行います。これはRAOの手術の中では最も傷の小さいMIS手術ともいえる手術です。(パソコンのサイト(http://www.spacelan.ne.jp/~tkct/lesion11.htm)には写真を供覧してあります。(手術写真が大丈夫な方のみご覧下さい。))皮下の大腿筋膜も同様に切開し、中殿筋・小殿筋の停止部の大転子というところの骨をいったん骨切りします。小殿筋と関節包の間を注意深く止血(仮骨形成防止目的)して剥離しながら、中殿筋・小殿筋を一塊として頭側に翻転していくと、回転骨切りを行う臼蓋縁に到達します。股関節後壁部を用手剥離し大坐骨切痕を確認し、短外旋筋群停止部の頭側部はわずかに切ることもありますができるだけ残し、坐骨基部も見えるようにします。次に、大腿直筋を前方へ剥離して腸腰筋腱も前方へよけ恥骨枝基部に到達します。(RAOの通常切開手術を充分に経験していない場合は、この前方の処置は小切開ではやや困難と感じます。)術後の早期回復を得るため、大腿直筋の起始部は下前腸骨棘から切離せずに回転する寛骨臼に付着したままにしておきます。曲率半径50mmの田川式弯曲ノミで骨切りを行います。小切開手術では、前方の処置をしている時に恥骨部の骨切りを先にしたくなりますが、寛骨臼が割れたり回転の妨げとなる凸部ができたりしないようにするため、最初のノミを抜くのが大変でも、田川の原法通り臼蓋上縁の骨切りから始めた方がいいと思います。恥骨・坐骨の骨切りが完全なら寛骨臼は容易に回転できます。回転するとき、下前腸骨棘を外側に出すと術後のX線正面像がよく見えますが、後縁も充分に回して荷重部分の面積を最大限にすることが将来の変形性股関節症発症防止に特に重要です。回転して骨欠損部があれば、骨盤内方の自家骨・−80℃凍結処理他家骨・ハイドロオキシアパタイトなどの人工骨を用いて欠損している部位を補填します。回転した寛骨臼と腸骨の段差をなくしてなめらかにするために、骨移植をした方が中殿筋に骨の角が強く当たらず術後の外転筋力の回復によいと思います。生体内吸収性のスクリューを回転した寛骨臼の固定に用いて寛骨臼をしっかりと固定すると早期回復を得られます。生体内吸収性スクリューは目的固定部位の骨固定がしっかりしていれば破損しません。(当院では上記の通り、短外旋筋群と大腿直筋を切離しないのと、寛骨臼をしっかりと骨盤に密着固定するので、早く離床することができます。)

◆臼蓋回転骨切り術(RAO)の問題点(短所)◆
臼蓋回転骨切り術の合併症としては、@神経麻痺・血管損傷、A脂肪塞栓・肺梗塞、B回転臼蓋骨の骨壊死、C感染などがあります。@臼蓋回転骨切り術の骨切りは手術している視野からは見えない骨盤内盤に達するので、見えない場所で神経・血管損傷による神経麻痺や大量出血が起こる場合があります。当院ではこの危険性を最小限にするために、透視装置で術中ナビゲーションを行って手術を行います。A骨切りを行う手術であるため、まれに脂肪塞栓・肺梗塞が発生することがあります。B回転した臼蓋骨に充分な血流が来なかったり荷重が過大である場合に、回転した臼蓋骨の骨壊死が発生することがあります。荷重を慎重にすることによって壊死した骨の再生を待ちますが、関節破壊が進行する場合や股関節痛がとれない場合は、引続き人工股関節形成術を行わなければならないことがあります。肥満があったり、35歳を過ぎて高齢であったりするほど、その確率は上昇します。また、術後の変形性股関節症の進行も、手術を受ける時期が高齢になればなるほど、また、術後経過年数が長いほど進む確率が上がり、35〜40歳を過ぎて手術を受けると20〜40%程の悪化率になります。C手術では充分に気をつけても感染は避けられない問題です。感染を起こらないようにするために、当院では臼蓋回転骨切り術も人工関節手術なみのバイオクリーンルームで手術を行い、手術中に手術創は抗生物質入りの大量の生理的食塩水で充分に洗浄し、手術の前後に抗生物質も投与します。クリーンルームを作っても大病院で手術場が2階・3階にある場合は、人の出入りが多く患者の移送搬入も頻繁なのでクリーンレベルの実測値が落ちます。また、手術室と前室のみクリーンルームになっていて、手術室のドアの開閉の度にクリーン度が落ちることもることもしばしばです。当院での対応は、手術室内の空気の出入りを考えて、一般の方の出入りを制限した5階に手術室を設け、そこを手術室と器材滅菌室の専用フロアとし、全室(手術室2室・滅菌洗浄室・手術室の廊下・手術患者搬入用の廊下)すべてをクリーンルームとし、どこの病院よりもクリーンレベルが上がるように工夫して設計し、感染防止の努力を行っております。

◆自己血輸血について◆
術前に貯血する自己血は400mlを2回採血します。私は自己血を回収するCBCコンスタバック・ドレーンという器具を1988年に最初にメーカーに輸入依頼し、薬事承認された3年後の1991年から今では常識になった術後自己血回収術を日本で最初に開始し、他家血輸血を回避して臼蓋回転骨切り術を行っています。

臼蓋形成不全の写真
変形性股関節症の初期
RAO術後8年目のX線写真
RAO手術創(普通の半分)
動くRAOの骨切りの様子


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