辻整形外科クリニック Terminology


ここは私の思うことを勝手気儘に述べたブログ風サイトです。(^_^)

◇◆THA・THR・人工股関節形成術・人工股関節置換術について◆◇

人工関節の父と言われるチャンレイの頃から人工股関節手術について用いられていた用語は主に total hip replacement (THR)である。日本語では、人工股関節全置換術とか全人工股関節置換術と訳され、日本整形外科学会の「整形外科用語集」では、〔人工〕股関節全置換術とされている。Total hip replacement は関節形成術(arthroplasty)の一つである。Total hip replacement だけでは、手術とか関節形成術と言う意味を含まないので、本来は、total hip replacement arthroplasty と言うべきである。20年ほど前の人工関節の英語の成書ではそう記載されており、また、現在の日本整形外科学会の「整形外科用語集」にも採用されている。一方、アメリカでは昔から単に total hip arthroplasty (THA)という人の方が多く、最近では日本の学会でもこちらを使う先生が増えてきている。Total hip arthroplasty (THA)と書いている人が増えてきているのに、日本語では人工股関節置換術のまま使われていることの方が多い。Total hip arthroplasty (THA)は本来は人工股関節形成術と訳すべきである。(なお、人工股関節置換手術と記載する向きもあるが、慣用的に使われていないばかりか、学術用語としての採用もなく誤用法である。)
まとめると次の通りである。

Total hip replacement(THR)=人工股関節置換術
Total hip arthroplasty(THA)≒人工股関節置換術
Total hip arthroplasty(THA)≠人工股関節置換術
Total hip arthroplasty(THA)=人工股関節形成術

同様に、膝の人工関節手術については、次の通りである。
Total knee replacement(TKR)=人工膝関節置換術
Total knee arthroplasty(TKA)≒人工膝関節置換術
Total knee arthroplasty(TKA)≠人工膝関節置換術
Total knee arthroplasty(TKA)=人工膝関節形成術

私は自分の診察室で20年前に「人工股関節形成術」というはんこを作り診断書などに用いてきたが、当時は保険会社や身体障害者や年金の担当者からよく人工股関節置換術のことかと問い合わせが来たり、人工股関節置換術というふうに診断書を書き直して欲しいという役所からの苦情が来た。そんな用語は誰も使っていなかったからである。今では人工股関節形成術として学会発表される先生もいらっしゃるようになって心強く思う。私は昔から total hip arthroplasty (THA)は医学的には人工股関節形成術と訳すのが正しいと思っているし、一般の方にわかりやすくいうには人工股関節手術として患者さんに説明をしてきている。最近では人工股関節形成術や人工膝関節形成術という表現をネット上でも時々見かけるようになってきているので、今後は人工股関節形成術人工膝関節形成術という言葉が日本語の中で市民権を得る日もそう遠くはないと思っている。


◇◆MIS・極小侵襲手術・最小侵襲手術について◆◇

MISとは本来は minimally invasive surgery のことで、整形外科だけではなく他科でも使われてきた。アメリカでは10年ほど前の1990年代後半から股関節の人工関節手術で小皮切手術がしだいに広がってきた。当時は、アメリカでも mini-incision と言ったり、minimally invasive と言ったりする人が混在していた。それは、MIS極小侵襲手術導入時には、私が MIS learning curve のところで述べたように、 learning curve の初期の段階であり、まず、皮切を小さくする訓練から始める。だから最初の頃はMIS極小侵襲手術では単に皮切が小さいだけだという批判も多かったし、現にそうである場合もあった。しかし、MIS極小侵襲手術に習熟してくると、皮切だけではなく深部組織にも愛護的になり、特に筋肉の横切や起始部・停止部からの剥離はほとんどしないようになってくる。そうなると、単に皮切が小さい mini-incision 手術ではなく minimally invasive な手術ということになる。では、MISという言葉は minimally invasive surgery の略語として広まったのであろうか?それは実は人工関節会社の競争の中で、ある会社が MISを Minimally Invasive Solution として商標登録し、宣伝広告を行ったからである。広まったきっかけの言葉は Minimally Invasive Solution の広告であるが、現実的には今では minimally invasive surgery という意味で用いられていることが多い。そして日本ではその会社は今ではMISについて Minimally Invasive Surgery として表現している。また、医師の間でも最近では mini-incision 手術ではなくて minimally invasive な手術を行うべきであるという考え方も定着してきている。

それでは、 minimally invasive surgery はどう訳すべきであろうか?
Minimal と言う言葉は、最小のという意味で使われこともある。たとえば、「これには副作用がほとんどない。」と英語で表現したい場合に、"Its side effect is minimal." というようにである。それは、単なる1つの文章の中の叙述表現(述語)だからである。しかし、minimally のように、多数について修飾的に言及する副詞として使われる場合は、「最小限度の」とか「最小限的に」とか、もっと簡略表現である「極小の」と言う意味あいになる。私は極小侵襲手術という言葉が minimally invasive surgery の訳語として、必要十分条件を満たしていると思う。それは、最小侵襲手術という言葉と極小侵襲手術という言葉を逆に英語に訳してみればわかると思う。最小侵襲手術は least invasive surgery になるし、極小侵襲手術は minimally invasive surgery となる。正確にまとめると下のようになる。

最小侵襲手術≒minimally invasive surgery
最小侵襲手術≠minimally invasive surgery
最小侵襲手術=least invasive surgery
極小侵襲手術=minimally invasive surgery

なぜ上のようになるかであるが、数学的に言えば文字通り「最小」の皮切の手術は世界に1つしかないわけで、アメリカでは年間30万件の人工股関節形成術のうちの70%にあたる約20万件がMIS手術で行われている現在、その20万件すべてが最小でかつ同一の最小サイズということはまずありえない(least likely!)からである。ほとんどのものはだいたい小さくても多少の差はあり、最小とは最も小さい物のわけであるから、そのうちの1例の手術のみが最小侵襲手術である。あとは、論理的には最小とは言えない。そして、実は、最小の手術が一番いいかと言えば、決してそんなことはない。最小の傷で無理やり皮膚や筋肉を引っ張って手術をしても、過伸展損傷が起こり、かえって皮膚の遷延治癒が起こったり筋肉の予期せぬ損傷が起こる。
物事は欲張りすぎるのはよくない。(←私の人生教訓) 最大限度の治療効果が得られる範囲内で最小限度の極小侵襲手術を行うべきであって、治癒機転を犠牲にしてまで手術創を最小にすべきではないから、私はMIS(minimally invasive surgery)の訳は最小侵襲手術よりも極小侵襲手術という訳の方が適切であると思っている。残念ながら学会も含めて話題性の強い最小侵襲手術という言葉の方が広がってきているので、私もホームページで使用している。今後は極小侵襲手術という表現を増やしていきたいと思っている。

英語では total hip arthroplasty と minimally invasive surgery を組み合わせる場合、単語が長いので前置詞を用いて連結し、 total hip arthroplasty with minimally invasive surgery などと不自然な形でしか表現せざるを得ないこともあったが、最近では、minimally invasive total hip arthroplasty (MITHA)や minimally invasive total knee arthroplasty (MITKA)という単語が定着し、検索サイトでもこの表現が採用されている。


◇◆病院・医院・Hospital・Clinic について◆◇

病院や医院は英語で表現すればどうなるのだろうか?

一般的には病院がホスピタルで医院がクリニックである。
これをカタカナで書く分には、日本におけるコンセンサスと私は受け入れている。

ホスピタル ≒ hospital
クリニック ≒ clinic

「≒」であって「=」ではない。
Clinic の語原はギリシャ語の klinikos (κλινικοσ)である。Klinikos こそが、患者に対する医療行為を指す本来的用語である。だからアメリカのウェブスターの辞書には臨床講義や臨床講義室を意味することが最初に書かれている。次に書かれているのは、大学病院や病院の「外来診療部門」のことであり、clinic では、外来患者(outpatient)を診療するのが主な業務である。Clinic とは原則入院設備のない無床の施設であり、有名なものとしてはアメリカの Mayo Clinic がある。Mayo Clinic では、アメリカ有数もしくは世界的な優れた医療業績を上げていながら入院設備は持たず手術を必要とする患者でも近所のホテルで寝泊まりして通院していた。(しかし最近では病床も併設した。)

Hospital の語原はラテン語の hospitale である。これは、客室とかおもてなしを意味し、入院患者のお世話をするということで病院の意味で使われるようになった。だから入院設備のあるものはすべてアルファベットで英語として記載するならば hospital である。日本語の一般的に使われる医院は、医療法上は診療所と記載され、19床以下の入院設備のある有床診療所と入院設備のない無床診療所の2つがある。英語の表現では入院設備がある(=hospital)か、ない(=clinic)かの2つの分類しかないが、医療法では入院設備のないもの(=無床診療所=clinic)と19床以下の入院設備のあるもの(=有床診療所=hospital)と20床以上の入院設備のあるもの(=病院=hospital)の3つに分類されるので、真ん中の有床診療所については訳語が不一致になる。わかりやすく書くと次のようになる。

Hospital(英語)=病院(日本語)と医院・クリニックのうちの有床診療所(日本語)
Clinic(英語)=医院・クリニックのうちの無床診療所(日本語)

入院設備のある有床診療所はアルファベットで記載する英語では hospital であるが、日本語では医院やクリニックとなる。だから、当院は日本語での施設名は、辻整形外科クリニックであるが、アルファベットで記載する場合は、入院設備のある医療機関なので、本来は Tsuji Orthopaedic Hospital である。しかし、それではアルファベットを読める日本人が混乱するので、日本語では病院と診療所を総称して医療機関と言うのと同様に、英語でも hospital と clinic を総称して institution と institute という言葉があるので、英語のアルファベット記載の医療機関名は Tsuji Orthopaedic Institute とした。

日本語と英語ならこれでよいが、日本語の漢字は元来中国から来たものである。日常表現の90%が今でも日本と中国で全く同じ意味を持つ。非常に、特別に、可愛いまで同じで驚くが、手紙(=トイレットペーパー)や汽車(=自動車)のように違うものもある。医院とは中国語では総合病院のことである。それは医を為すところでありギリシャ語の klinikos に該当し、他方で、病院とは病める人をケアするところでありラテン語の hospitale やドイツ語の Krankenhaus (患者の家=病院)に近いと言える。また、中国語においては病院とは単科病院を指し、主に精神病院に使われる。小さいものは診所と言われ、日本語の医院のうちの無床診療所に該当する。まとめると、次のようになる。

医院(中国語)=総合病院(日本語)と医院(日本語)のうちの有床診療所(日本語)
病院(中国語)=専門科の単科病院(日本語)で、ほとんどの場合、精神病院(日本語)
診所(中国語)=医院(日本語)のうちの無床診療所(日本語)

日本語での有床診療所は英語では入院設備があるのでアルファベット表記では hospital となり、日本語の病院と紛らわしい。同様に最近貿易額もアメリカと逆転してきた古来中国における漢字本来の用法では、有床診療所(日本語)は医院(中国語)である。医院(中国語)は同時に総合病院(日本語)も意味するので、これもまた病院(日本語)と紛らわしい。また、有床診療所たるクリニック(日本語)≠clinic(英語)であり、有床診療所(日本語)≠診所(中国語)である。

以上、 辻 俊一

(MIS極小侵襲人工股関節手術 MITHAについての写真説明はこちらへどうぞ)
(MIS極小侵襲人工膝関節手術 MITKAについての説明はこちらへどうぞ)
(人工股関節形成術 THAについての説明はこちらへどうぞ)
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